オーパ・クラフトの分割ボートのジョイント部については別にまとめのページもありますが,あらためてどのような考えでFRP製の部材を使った全周かみ合わせ方式に寄るジョイント形式を採用しているかを記しておきたいと思います。
オーパ・クラフトの分割ボートの特徴の一つに,全周かみ合わせ方式のFRP製ジョイントがあります。一般的な分割ボートでは,前後の船体をボルトでつなぎとめる方式が多いかと思いますが,オーパ・クラフトでは,前後の船体の結合部にかぎのような部分を備え,それがかみあわさり,さらにかみ合わせ部のゆるみを防止するためにジョイント板とよばれるくさびでかぎ部分をしっかりとかみあわせ,船体をつなぎとめる方式です。
オーパ・クラフトの分割ボートのジョイント部は外からかかる様々な力をしなやかに受け止める全周かみ合わせ方式です。
オーパ・クラフトの分割ボートは,船体前後の鈎状部分を互いに噛み合わせ,更にジョイント板でがっちりと船体を密着させます。最後のボルト締結はジョイント板がはずれないためのものです。船体が受ける複雑な力は船体のFRP製結合部が全周で受け止めますので,力が一箇所に集中せず,頑丈な結合となります。
なぜ船体の結合にボルトを使わないのか。確かに,ボルトを使うことで重量は軽くすることができます。オーパ・クラフトのボートを実際に見ていただいた方はご存知かもしれませんが,全周かみ合わせ方式のジョイント部は,FRPの厚みが10ミリを越えます。大型のクルーザーですら船体のFRPの厚みは数ミリ程度ですので,いかにこの部分が厚みをもっているかがおわかりいただけますでしょうか。
ただ問題としては,FRPの厚みが増すということは,それだけ重量が重くなります。軽量で一人でも運びやすいのが分割ボートの特徴ですから,重量だけ考えれば,ボルトでもいいのではと考える方もあることでしょう。 しかし,全周かみ合わせ方式は3つの利点があると考えています。
一つは,ボートにかかる力が分散され,ジョイント部の部分部分それぞれが耐える力の大きさが小さくて済むということです。ボートにかかる力はかなり複雑かつ多様で,ボートが突き上げられたり,ひねられたりする力があちこちから加わります。その時,結合部がボルトという「点」になっていると,その結合部分に力が集中します。また,この力の大きさは,場合によってはトン単位の重しをのせるのと同じような大きさになることもあります。
FRP部材に寄る全周かみ合わせ方式は,材料自体がある程度しなやかで力を受けながすことができる上,全周,「面」でかみあっていますので,ボートにかかってくる力をかみ合わせ部全体で受け止めることになり,1箇所あたりが耐えなければならない力の大きさは「点」である場合に比べ,大幅に小さくなります。
水上で船体にかかる力は,ある程度計算できますし,すでに技術的な指針もありますので,結合部がどれくらいのちからに耐えるべきかは所与の数値があります。オーパ・クラフトでは,安全を見込み,安全係数をかけてその所与の数値を大幅に上回る力に耐えるようジョイント部を設計してある他,実際にジョイント部に力を加え,衝撃や静止した荷重に耐えられるかの試験を重ね,自信をもってボートを世に送り出しています。
ボルト式のもう一つの問題は,船体の結合や分離に手間がかかることです。一方で,カギ部分を噛み合わせ,くさびを打ち込む方式であれば,取り付け・取り外しには1分とかかりません。オーパのボートユーザーさんなら,慣れた方ならそれぞれ10秒程度ですみます。
実は簡単にこのようにすませられるのは,FRP部品のサイズや凹凸が微妙に加減してあり,互いに簡単に噛み合うように設計・製造してあるからです。これは,オーパ・クラフトならではの独自のFRP設計技術によります。それでもオーパ・クラフトのボートにもボルトが使ってあるではないか,締めたり緩めたりしているではないか,結局ボルト方式と同じ強度なのでは?とおっしゃる方があるかもしれません。
まったく違います。オーパの全周かみ合わせ方式で使用しているボルトは,ジョイント板が上下にずれないように通してある部品です。ですので,ボートの運用中にかかる力は,結合部に加わる力のごくわずか一部であり,金属部品が耐え得る最大の力に比べてはるかに小さいものです。繰り返しこのような力が加わったとしても,このずれ防止ボルトが壊れるようなことはありません。
そしてもう一点。ボルト方式での構造的な問題です。ボートの前後船体をつなぎとめるためにボルトを通す場合,まず上の方(ボートの船べり近く)左右2箇所は最低限必須です。片方だけですと,その片方の結合部に力が全て集中し,簡単にボルトが破断してしまいますから。ですが,上の方だけでとまっていて船底部分が固定されていない構造の場合,船首と船尾に突き上げる力が加わると,船体がくの字型に曲がり,やはり結合部の二点に力が集中してしまいますので,これでもやや不安な面があります。そこで,船底側も固定しておこうということになります。三点で押さえつけてあれば,1点が機能しなくなっても,まだ2点残っていますので,前後の船体が分離してしまうという最悪の事態は避けられそうです。ですが,船底近くにもうひとつボルトを通した場合,そこは普段は水面より下の部分であり,そこに船体を貫通する穴が開いているということになります。前後の船体の結合部に水が侵入してきた場合,そこから水が船内に入ってくる可能性があります。もちろん,前後の船体それぞれに空気室がそなわっている分割ボートがほとんどですので,全てが簡単に沈むことはないかとは思いますが。また,船底側の結合が船体を通すボルトではなく,ひっかけ金具方式もあります。この場合,万が一金属部品が壊れたとしても,船内に水が入ってくる可能性は低いです。ですが,安全・安心なボートを自信を持って送り出したいオーパ・クラフトとしては,こうした方式は採用できませんでした。
オーパが採用する全周かみ合わせ方式は,船体下部には貫通孔部分がありません。これまで何千艇を送り出してきて,オーパのボートのジョイント部が大きく壊れるような事故は1件も耳に入っておりませんが,たとえ万が一,この部分が壊れたとしても,そのせいで船体に水が入ってくることの無いよう,低い位置の貫通孔が必要にならない方式を採用したいと考えました。
もちろん船底側の結合が船体を通すボルトではなく,ひっかけ金具方式もあります。この場合,万が一この金具部品が壊れたとしても,船内に水が入ってくる可能性が高いとはいえないかもしれません。ですが,安全・安心なボートを自信を持って送り出したいオーパ・クラフトとしては,力が集中するような箇所,破断が心配となる箇所を作らずともすむ,全周かみ合わせ方式のほうが,オーパらしいと判断したのです。 安全性,耐久性,利便性を高度なバランスで実現する,これが,オーパ・クラフトの分割ボートなのです。