近年、オーパ・クラフトのお客様のボート使用目的は劇的な変化を遂げています。かつては個人レジャー、特に海釣りが中心でしたが、東日本大震災後の消防・警察向け救助艇の開発を機に、マンションや物流倉庫の防災備蓄、水資源の環境調査、さらには最先端の海洋系研究開発まで、その翼を広げています。
これらのお客様からの要望に共通しているのは、「個人の生命を預ける道具への、妥協なき信頼」です。
個人のお客様からも、単なる娯楽の道具を超えた「中長期的な資産価値と安全性」を問う声が増えています。こうした切実な要望に応えることは、製造メーカーとしての社会的責務であると私たちは確信しています。
私たちはこうした期待に応えるべく、オーパ・クラフトのボート製品に詰め込まれ、カタログにも掲載させていただいている、安全を担保する技術成果の「スペシャリテ」についてあらためてまとめ、全7回にわたって公開していくことにいたしました。オーパが長年取り組んできた内容と実証済みの実績を整理してご紹介することで、お客様に技術について納得していただき、稟議など購入のご検討の際の安全性に関する証拠として活用いただければ幸いです。
では早速、第1回をお楽しみください。
小型ボートにとって、転覆は即座に生命の危機に直結する重大事態です。もちろん、船体の大きさに限らず転覆は深刻な事態ですが、船体が小さいほど波浪の影響を受けやすく、万が一の際の救助側からの視認性も低下しますので、小型ボートは転覆そのものや転覆した時のリスクの両方が大きいと言えます。
FRP船や木製・金属製のリジッド型ボートはもとより、舷側に空気室を備えて一見波浪に強そうに見える軟質素材のボートといえど、風にあおられたり重心が船べりの外に移れば、物理則によって転覆してしまいます。船が小型であればあるほど、乗員の体重と船の浮力の相対的な比が小さくなり、転覆しやすくなってしまいますので、小型の船舶を安全に利用するには、乗船中に身を乗り出さない、立ち上がらず身を低く保つなど重心を船体から離さない、風の強い場合は出船しない、大型船や高速船による波をかわす、など小型船独特の知識や経験が必須なのです。
ところで日本では、2003(平成15)年の船舶職員法改正で免許不要艇(いわゆる2馬力艇)が導入され、小型船独特の知識や経験を得る機会が少なくなり、経験の浅い操船者が波浪にさらされるリスクが増大しました。規制緩和の推進は小型ボートの供給業者や水上レジャー関連業者にとっては追い風となると考えてのことでしょうが、一方で、懸念されたとおり、無免許艇導入により知識や経験が浅い利用者の割合が増え、事故発生件数や死亡事故が有意に増加してしまいました。
私たちはこの現実と正面から向き合い、「技術の恩恵を、すべての人の安全の確保につなげる」ために、規制緩和に先立って小型ボートの転覆を効果的に防止する技術の開発を決意し、次の三つの開発目標を掲げました:
特に3点目は難問でした。強固に固定すれば重くなり、簡素にすれば強度が落ちる。しかし、「現場で使われない安全装備には、存在価値がない」という職人としての矜持のもと、私たちはこの相反する命題すべての解決に挑む決意をしたのです。
小型ボートの転覆耐性を改善する装置開発の一番の課題は、小型ボートが宿命的に抱える、許容できる重心移動範囲が狭いという「物理的限界」との戦いでした。私たちはまず、この根本的な限界を拡張するため、「浮体」を船体安定装置に利用する先人の知恵を参考にしました。
実は、小型船舶が転覆のリスクが高いという物理的な宿命に対し、先人たちは「浮体」という英知で対抗してきた実例があります。

南洋のカヌーが備える腕木と浮体は、激しい外洋の波をいなす極めて合理的な仕組みです。船体から距離をとって浮体を配置することで、重心移動許容範囲を大幅に広げることができます。

単にアウトリガー・ボートのように浮体を備えるだけでなく、手間のかからない着脱方式や、重心位置から離れた2箇所で着水していることによるモーメント効果や三点支持による安定性を活用する。これらを同時に一つの仕組みで実現するためには、慎重な強度計算や度重なる実験・検証が不可欠でした。
例えば、船体の片側1箇所に腕木と浮体を接続する方式は、複数箇所で接続する方法に比べ、着脱の手間が省ける、生産の手間が省けるなど、数多くのメリットがありますが、一方で、船体の一箇所に荷重が集中し、それだけ船体の破損のリスクが高まることが懸念されます。
オーパでも、当初はこの装置の荷重集中による船体破損の問題をなかなか解決することができませんでした。実験するたびに、船体が割れる。これでは簡単な着脱どころか、安心して浮体を船体に備え付けることもできません。オーパの船体を構成する繊維強化プラスチックは、積層する繊維布の種類や枚数を増やすことで強度を高められますが、むやみに増やせば重量が大幅に増してしまいます。大人1人で取り扱えることを特徴とするオーパの小型ボートでは、浮体と腕木を接続する部分だけの強化にとどめたかったので、よほど軽量化できる樹脂と繊維の組み合わせでもない限り、採用できなかったのです。開発に着手した10年以上前もそうですが、現在でも航空・宇宙などの先端素材をもってしても、オーパが求める重量と強度を適切な原価で実現するのは至難の業です。
散々悩み抜きましたが、ある日、航空機に使われていた画期的な先端技術との出会いがありました。単純に繊維布を増やして強度を増すのではなく、積層する繊維の形状の組み合わせで負荷を分散する。この原理さえつかめば、後はボートの形状に合わせて様々な形状の布の積層を設計し、実験を繰り返せばよいわけです。
こうして技術的課題を克服し、2008年には開発の目処をつけ、「固定式フェンダーフロート」の特許申請、2012年の特許取得に至ります。ワンタッチで着脱できる機構を備えたフロートは、現在でも他の追従を許しませんが、これは、船体とフロートの両方を自社で設計しているオーパ・クラフトの強みを活かしています。
その後、経済産業大臣より、フロート付きの小型ボートの製造・販売が「愛知の優れたプラスチック技術」を活用した地域資源活用事業であると認定されたことと、実際にフロートの使用で事故数が激減し、安心感がさらに高まったといったユーザー様からの数々のご報告は、当初掲げた目標、小型船舶の転覆耐性の大幅な向上を達成することができたという大きな自信につながりました。また、公的実験施設での荒天時安定性の検証や、フェンダー・フロートに着目していただいた新たな取引先と協力しての静的安定性の検証などを重ねることで、オーパの技術はレジャー用のみならず、消防・防災の現場でも使える確かな技術という評価をいただくことにつながりました。



しかし、固定式フロートによってオーパのボートの安定性は劇的に向上しましたが、一方で「航走時のエネルギー散逸」や「着岸時や狭隘な水路での取り回し」という運用上の課題が顕在化しました。「安全性を高めれば、利便性が損なわれる」―この技術的ジレンマを解消すべく挑んだのが、現在の完成形である「可動式(はねあげ式)フロート」です。必要な局面では水面を捉えて最大限の安定性を確保し、航行時には瞬時に離水させて気持ちの良い走りを実現する。この動的な適応力の獲得こそが、単なる装備品を「命を守るシステム」へと昇華させた、当社の技術史における重要な分水嶺となりました。

はねあげ式のフロートの開発にあたって課題となったのは、可動部の構造です。海上での活動が多いオーパのボート使用は、塩を含んだ海水や海の上の風雨にさらされます。塩が固まると可動部が固まってしまったり、動きが悪くなって無理に操作しようとして怪我をさせてしまう恐れもあります。ですので、必要な可動範囲を長期間に渡って守られるよう、簡単に塩水を洗い流せる構造にする、熱膨張や収縮、変形をもたらすような外力に耐える、必要最小限の力で動かすことができて確実に固定される、などの技術目標を設定し、簡素かつ確実な機構としました。
こうした経緯をへて、フェンダーを活用したサイドフロートを備えたオーパ・クラフトのボートは、安全の裏打ちとなる信頼性・利便性・耐久性で世界最高水準のバランスを実現するに至りました。その実績は、以下のような客観的な数値と外部評価に裏打ちされています。
なぜこれほどの信頼を得られたのか。そこには工学的裏付けがあります。
オーパ・クラフトのサイドフロートには、1億円を超えるクラスの大型クルーザーを守る船体保護用フェンダー(USポリフォーム社製)を採用しました。500回以上の過酷な接岸使用にも耐えうるこの素材の耐久性は、1,000名近いフェンダーフロート使用実績の下で補修率わずか0.2%という驚異的な数値に現れています。
フロートの船体本体の接続を1箇所でまかなうことが実現できたのは、繊維強化プラスチックと金属部品という異種材料の接合技術です。前述のとおり、航空機で使われる異種形状の繊維布積層による「エネルギーの吸収・発散」の思想を取り入れ、必要最小限の船体重量増で、支持金具の把持部にかかる複雑で大きな力をしなやかに受け止めます。
また、フロートを支える支持金具の設計には、自動車産業で使われる「エネルギー管理」の思想を導入しました。この支持金具は、当社が開発した振動耐久試験機による50万回×2回の連続振動試験をクリア。標準的な使用で20年以上の耐久性を実現しています。
この結果、オーパ・クラフトのフェンダー・フロートは、販売開始以来、フロート支持部・船体側の把持部とも、破壊による重大なトラブルは一切発生していないという事実が、これら工学技術とその応用の確かさを表しています。
世界でも類を見ない、オーパ・クラフトのサイド・フロートの独自の「はねあげ式」は、走行の有無や水面状況の変化に応じ、わずか1秒でフロートの位置を変更可能。はねあげた状態でも万一のリスクに備えて船体の傾きを抑制する位置にしっかりととどまり続け、過酷な環境で長期間に渡って利用される条件でも可動部が機能を維持し続ける内部構造を採用しています。
これにより、
といった取り回しの良さと安全性を両立する、他の方式では真似のできない安全装置となっており、実際、海外市場や世界の特許情報を調査しても、2026年2月現在、同等レベルに達する分割ボート用サイド・フロートは確認されておりません。
オーパ・クラフトのフェンダー・フロートは、単なるオプションパーツではありません。それは、過酷な現場で働くプロフェッショナルから、かけがえのない休日を楽しむ方々まで、小型で利便性の高い小型分割ボートが「誰もが等しく安全を享受できる環境」を実現するための究極の回答です。
サイド・フロートについて、固定式とはねあげ式の「ダブル特許」を取得している点も、利便性を犠牲にしないで安全な仕組みを実現する技術的独創性に満ちていることの証明です。私たちはこれからも、特定の流行や権威に左右されることなく、ただ「人の命を守る」という一途なものづくりを続けてまいります。
フェンダー・フロートについてのストーリーはここまでです。次回の第2回では、このフロートを支える船体の堅牢さとも技術的につながる、オーパ・クラフトの分割ボートの安全性を支える最重要要素、船体のかみあわせによる船体結合方式の技術について、「最強クラスのジョイント強度」と題して詳しくお伝えします。
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